DBT体験談集

もう感情に流されない:DBTの苦痛耐性スキルで衝動的な行動を止められた私の体験

Tags: DBT, 苦痛耐性スキル, 衝動性, 感情調整, 体験談

DBT体験談集をご覧いただきありがとうございます。今回は、感情の波に乗りこなし、衝動的な行動を止めるために私がDBTで学んだ「苦痛耐性スキル」についての体験をお話ししたいと思います。

感情の波に翻弄された日々、そしてDBTとの出会い

大学生になり、一人暮らしを始めてから、感情のコントロールが難しくなったと感じることが増えました。強い不安や怒り、悲しみが一度押し寄せると、もうどうしようもなくなり、衝動的にSNSで愚痴を投稿したり、やけ食いをしてしまったり、友人につらく当たってしまったりすることがありました。後で後悔しても、また同じ状況になると繰り返してしまう。自分を責める気持ちが募り、心身ともに疲弊していました。

そんな時、カウンセリングの先生からDBT(弁証法的行動療法)という言葉を聞きました。最初は「本当に私にできるのだろうか」という不安でいっぱいでしたが、感情の波に飲み込まれずに生きていけるようになりたい、という強い思いから、DBTのプログラムに参加することを決めました。特に心惹かれたのは、苦しい感情から一時的にでも距離を置くための「苦痛耐性スキル」という概念でした。

苦痛耐性スキルとの出会い:まず「TIPPスキル」から

DBTのセッションが始まり、まず学んだのが「マインドフルネス」の基礎でした。そして、苦しい感情の波が押し寄せた時に、その場を乗り切るための「苦痛耐性スキル」へと進みました。

中でも印象的だったのは「TIPPスキル」です。これは、苦しい感情の波が最高潮に達したときに、体を使って冷静さを取り戻すための応急処置のようなスキルでした。 * T (Temperature:体温):顔を冷たい水で洗ったり、冷たい飲み物を飲んだりして、一時的に身体の温度を変化させる。 * I (Intense Exercise:激しい運動):短時間で激しい運動をする。 * P (Paced Breathing:落ち着いた呼吸):ゆっくりと深く呼吸をする。 * P (Paired Muscle Relaxation:対になった筋肉の弛緩):筋肉を緊張させてから緩めることを繰り返す。

初めて「TIPPスキル」を試したのは、友人との些細な意見の食い違いから、抑えきれない怒りがこみ上げてきた時でした。すぐに部屋に戻り、冷たい水で顔を洗い、深呼吸を繰り返しました。すると、数分もしないうちに、あの爆発しそうな感情のピークが少しずつ下がり、冷静に状況を考えられるようになったのです。衝動的に友人に感情をぶつけたり、SNSに不満を書き込んだりする衝動が、確かに和らぎました。

衝動を乗り越えるための「応急処置ボックス」

「TIPPスキル」の他にも、DBTでは様々な苦痛耐性スキルを学びました。例えば、「応急処置ボックス」を作るというスキルがあります。これは、苦しい気持ちになったときに自分を落ち着かせるためのアイテムを箱に集めておくというものです。私は、好きな香りのアロマオイル、お気に入りの音楽を聴けるイヤホン、触り心地の良い小さなぬいぐるみ、そして気持ちが落ち着くような短い文章を書いたカードなどを入れました。

試験のプレッシャーでどうしようもなく不安になった時、このボックスを開き、アロマを嗅ぎながら音楽を聴きました。すると、不安で頭がいっぱいだった状態から、少しだけ思考がクリアになり、今できることに集中しようと思えるようになりました。衝動的に「もう無理だ」と投げ出してしまう代わりに、一歩立ち止まって対処することができたのです。

DBTがもたらした変化:自分への信頼

DBTを続ける中で、最も大きな変化は「自分は感情に流されてしまう人間だ」という諦めが薄れ、少しずつ自分を信頼できるようになってきたことです。以前は、感情の波が来ると、まるで津波に飲み込まれるかのように無力でしたが、今は「スキルがあるから大丈夫」と思えるようになりました。

もちろん、今でも強い感情に襲われることはありますし、完璧にスキルを使えるわけではありません。でも、衝動的に行動して後悔する回数は格段に減りました。感情の波が来ても、すぐに反応するのではなく、ワンクッション置けるようになったのです。この「ワンクッション」があることで、より建設的な選択ができるようになりました。

読者へのメッセージ

DBTは魔法ではありません。一朝一夕で変わるものではなく、日々の練習と継続が必要です。私自身、スキルを実践するのが難しいと感じる時期もありました。しかし、小さな成功体験を積み重ねるたびに、「自分でもできるんだ」という自信につながっていきました。

もしあなたが今、感情の波に翻弄され、衝動的な行動で苦しんでいるのなら、DBTの苦痛耐性スキルが、あなたにとっての「心の盾」になるかもしれません。この体験談が、DBTに興味を持つ方、あるいは始めたばかりで不安を感じている方の、ほんの少しでも参考になれば幸いです。