感情の波に乗りこなす:DBTの感情調整スキルが私にくれた穏やかな日々
「感情の波に飲み込まれるような感覚」――もしあなたがそうした経験をお持ちなら、きっと今日の私の話に共感していただけるかもしれません。今回は、弁証法的行動療法(DBT)の中でも特に「感情調整スキル」が、どのように私の生活を変えてくれたのか、その体験をお話ししたいと思います。
DBTを知ったきっかけと始める前の気持ち
私は大学生になってから、些細なことで感情が大きく揺れ動き、それに振り回されることに悩んでいました。例えば、友人の何気ない一言で急に落ち込んだり、ちょっとした予定変更で怒りがこみ上げたり、そのたびに人間関係にヒビが入るのではないかと不安を感じていました。感情の激しいアップダウンに疲弊し、「どうすればこの感情の波を穏やかにできるのだろう」と、漠然とした焦りを感じる毎日でした。
そんな時、カウンセリングを受けている中で、DBTという治療法があることを知りました。感情調整の困難さに特化したスキルを学ぶと聞き、藁にもすがる思いで説明会に参加しました。「本当にスキルを学ぶだけで感情がコントロールできるようになるのだろうか?」という疑問と、「もし少しでも楽になれるなら」というかすかな期待が入り混じった複雑な気持ちで、DBTプログラムを始めることを決めました。
具体的なDBTの経験:感情調整スキルとの出会い
DBTのプログラムでは、マインドフルネス、苦痛耐性、対人関係、そして感情調整という4つの主要なスキルモジュールを学びます。私が特に助けられたのは、この感情調整スキルでした。
感情調整スキルでは、まず自分の感情を「識別する」ことから始めました。それまで私は、怒りも悲しみも不安も、すべてがごちゃ混ぜになった「嫌な気持ち」としてしか捉えられていませんでした。しかし、スキルセッションで「今、どんな感情を感じていますか? その感情には名前がありますか?」と問われるうちに、自分の心の中に様々な感情があることに気づき始めました。例えば、「友人のLINEの返信が遅いのは『不安』と『寂しさ』が混ざったものだな」といった具合です。感情をラベリングできるようになると、その感情に圧倒されることが少しずつ減っていきました。
次に、具体的なスキルとして「反対行動」を学びました。これは、特定の感情に対して衝動的にとりがちな行動とは正反対の行動を意識的に選択するというものです。例えば、強い怒りを感じるとすぐに相手を責めるようなメッセージを送ってしまっていた私ですが、怒りの感情を感じたときに、深呼吸をしてメッセージを送るのをやめ、まずは別の部屋に移動してみる、といった反対行動を試みました。最初はとても難しく、「本当にこれで感情が収まるのだろうか」と半信半疑でしたが、小さな成功体験を積み重ねるうちに、感情の奴隷になっていた自分から一歩離れて、自分の行動を選ぶことができるようになったのです。
また、「行動の蓄積」というスキルも実践しました。これは、日々の生活の中にポジティブな感情をもたらす活動を意図的に取り入れることで、全体的な感情の穏やかさを高めるというものです。私はお気に入りのカフェで読書をする時間を作ったり、友人と一緒に新しい趣味を始めたりしました。すぐに大きな変化があったわけではありませんが、少しずつ心の中に「喜び」や「満足感」といったポジティブな感情が蓄積されていくのを感じました。
体験した変化や効果
DBTの感情調整スキルを実践する中で、私の日常は少しずつですが、確実に変化していきました。
まず、感情の激しいアップダウンが以前よりも穏やかになりました。完全に感情がなくなるわけではありませんが、感情の波に飲み込まれるのではなく、「感情が来ているな」と客観的に認識できるようになりました。これは、自分の感情に名前をつけ、その感情がもたらす衝動的な行動を一旦止めることができるようになったからだと思います。
また、対人関係においても良い変化がありました。これまでは感情的になって相手を傷つけたり、逆に自分の気持ちを伝えられずに我慢してしまったりすることが多かったのですが、感情調整スキルを学ぶことで、一歩立ち止まって冷静に対応できる場面が増えました。その結果、友人や家族とのコミュニケーションが円滑になり、以前よりも関係性が安定したと感じています。
何よりも嬉しかったのは、「自分は感情に振り回されるだけの存在ではない」と、少しずつ自己肯定感が高まっていったことです。感情と距離を置き、自分の選択で行動できるようになることで、日々の生活における苦痛が軽減され、穏やかな時間が増えていきました。
継続のモチベーションや工夫
DBTのスキルを継続することは、決して簡単なことばかりではありませんでした。感情が大きく揺れた時には「もうやめたい」と思うこともありましたし、スキルを使うのが面倒に感じる日もありました。
そんな時、私を支えてくれたのは「スキルログ」でした。これは、スキルを使った状況やその効果を記録するものです。ログを見返すことで、「あの時もスキルを使って乗り越えられた」という小さな成功体験を視覚的に確認でき、それが次の行動へのモチベーションにつながりました。また、スキルグループの仲間たちの体験談を聞くことも、自分一人ではないという安心感を与えてくれました。
まとめ/読者へのメッセージ
DBTの感情調整スキルは、私にとって感情の波を乗りこなすための羅針盤のような存在になりました。感情に翻弄され、疲弊していた私に、穏やかで自分らしい毎日を送るための道筋を示してくれたのです。
もし今、あなたが感情の激しい波に苦しみ、どうすれば良いかわからずにいるのなら、DBTの感情調整スキルが、一つの光となるかもしれません。これはあくまで私個人の体験談ですが、この話が、DBTに関心を持つ方や、一歩踏み出すことをためらっている方の、ささやかな希望や参考になれば幸いです。